医療機関における外国人患者の未収金に関する問題が、訪日外国人が増加するにつれて深刻化しています。
厚生労働省医政局が2025年9月に公表した、令和6年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」によると、調査回答があった病院で外国人患者の未収金総額は約13億に上り、多くの医療機関で対応に苦慮している実態が明らかになりました。
本記事では、この調査データを基に、未収金の実態と管理上あるべき体制について解説します。
以下の内容は執筆日時点での情報に基づいています。法令改正等がないか必ずご確認ください。また、内容について細心の注意を払っておりますが、記載の内容をもとに生じたあらゆる損害に関して、弊事務所では一切の責任を負いません。
1.未収金の実態
1-1. 未収金の全体像
実態調査は、全国8,220病院を対象に調査が行われ、回答回収数は5,487病院となっています。
同調査では、未収金に関する調査も行われ、
・直近会計年度の未収金総額:881億円
・うち、外国人患者の未収金総額:13億円(外国人患者の未収金がある病院の割合:28.9%)
の調査結果が公表されています。
1-2. 患者区分別の特徴
2024年9月に発生した、外国人患者区分別の未収金調査も行われており、以下の結果が公表されています。
<在留外国人患者>
〇外来
・発生病院数:355病院(13.3%)
・在留外国人未収金(2024年9月発生):33百万円
・平均発生額:94,907円
〇入院
・発生病院数:223病院(21.5%)
・在留外国人未収金(2024年9月発生):132百万円
・平均発生額:593,178円
<訪日外国人患者(医療渡航除く)>
〇外来
・発生病院数:32病院(6.5%)
・訪日外国人未収金(2024年9月発生):2百万円
・平均発生額:73,766円
〇入院
・発生病院数:19病院(14.5%)
・在留外国人未収金(2024年9月発生):57百万円
・平均発生額:3,046,059円
上記調査からわかるように、多数の医療機関で主に在留外国人患者の未収金が発生していることがわかります。
また、公的医療保険未加入で全額自費診療となる場合もあり、平均発生額が高額になっていることも特徴です。
2.外国人患者への対応実態
2-1.在留外国人患者への事前本人確認状況
在留外国人患者へ、保険証以外の本人確認を行っている医療機関は、わずか29.3%となっています。
在留資格により公的医療保険の加入要否が異なる点、なりすまし防止の観点等から、未収金発生を未然に防ぐために、保険証以外の本人確認実施が望まれますが、7割以上の医療機関で実施できていない実態が表れています。
2-2.訪日外国人患者への事前対応状況
訪日外国人患者へ、本人確認やデポジット等対応をを行っている医療機関は、わずか12.9%となっています。
訪日外国人患者は通常公的医療保険に加入していないため、請求額が高額になるケースが多く、未収金発生を未然に防ぐために、厳格な事前対応実施が望まれますが、多くの医療機関で実施できていない実態が表れています。
2-3.外国人患者への未収金対応状況
外国人患者を対象に、未収金回収の取り組みを行っている医療機関は、わずか8.8%となっています。
前述のとおり、外国人患者への請求は高額になるケースが多く、短期間で帰国するなど通常の日本人患者以上に慎重かつ迅速な対応が求められるケースもあります。しかし、大半の医療機関で実施できていない実態が表れています。
3.外国人患者へ望まれる管理体制
3-1.事前の管理体制
2-1、2-2に記載のとおり、未収金発生防止に寄与する事前対応が行われていないケースが多くなっています。
すぐに実施できる対応として、在留カードやパスポートによる本人確認は確実に行うことが必要です。
また、主に訪日外国人については、医療費が高額になるケースが多く、事前に概算医療費の提示や同意書の取得を行うことが望まれます。
また、医療費の前払預かり制度である、デポジット制度を導入することも有用と考えられます。
※デポジットでは事前の同意や預かり管理体制構築が必須となるため、事前の体制整備が必要です
3-2.支払方法
医療費に関するトラブルや支払意思がない患者以外にも、日本円の手持ちが少なく、支払段階で医療費全額を支払うことができずに、未収金が発生するケースも想定されます。
そのようなケースで有効なのが、キャッシュレス決済の導入です。
近年多くの医療機関では、クレジットカード決済が導入されていますが、中国での利用率が高いAlipayやWeChat Payなど、患者層に合わせたキャッシュレス決済の導入は有効な未収金発生の防止策となります。
3-3.事後の管理体制
2-3で記載のとおり、外国人患者への未収金の事後管理は大半の医療機関で実施できていません。
特に訪日外国人患者は、帰国後の督促が困難なケースが多く、慎重かつ迅速な対応が必要となります。
通常の督促連絡と並行して、分割払い契約の締結、宿泊先との連携等の施設における対応方針の策定が望まれます。
また、「訪日外国人受診者医療費未払情報報告システム」への報告など、実務面での対応マニュアルも定めておくことが望まれます。
上記では未収金管理の最初期に行うべき対応の概要を紹介しましたが、施設における外国人患者割合などを考慮して、計画的に体制構築を進めていくことが望まれます。
今後一層の増加が見込まれる外国人患者に対する未収金発生管理体制構築の重要性が高まっています。
電子カルテ、医事会計システム等導入済み(または導入予定)のシステムを活用しながら、効果的かつ効率的な未収金発生の事前予防・事後対応方法を定めることが重要です。
その際には、厚生労働省が公表する「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」を参考にするとともに、施設実態に応じて管理体制に過不足がないよう専門家の意見を取り入れて、全体最適の組織体制を計画的に構築していくことが重要です。
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