社会福祉法人は、社会福祉法に基づき社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人です。
公益性の高さから様々な優遇が受けられる反面、法令による多数の規制が設けられています。
本記事では、
2.社会福祉法人の規制
について、関連法令を引用しながら解説します。
なお、以下の内容は執筆日時点での法令情報に基づいています。法令改正等がないか必ずご確認ください。また、内容について細心の注意を払っておりますが、記載の内容をもとに生じたあらゆる損害に関して、弊事務所では一切の責任を負いません。
2.社会福祉法人の規制
社会福祉法人は、前回記載したとおり、優遇や特例措置がある反面、その公益性の高さから多数の規制が設けられています。
今回は、社会福祉法人に課せられている主な規制について各種関連法令を流用しながら解説します。
<参考>前回記事:社会福祉法人について-社会福祉法(定義と事業) その1
〇資産所有要件(社会福祉法第25条)
社会福祉法人に課せられている重要な規制として、資産所有要件があげられます。
具体的には、原則として社会福祉事業を行うために必要なすべての物件について、自己所有、又は、国や地方公共団体からの貸与もしくは使用許可を受けていることが必要があります。
この規制は、社会福祉事業の公益性の高さから、施設の安定運営を担保する観点で設けられた規制となります。
しかし、この規制のままでは、都市部など土地の取得が極めて困難な場所では、社会福祉事業の実施が困難となってしまいます。
そのため、都市部等土地の取得が極めて困難な地域においては、不動産の一部(社会福祉施設を経営する法人の場合には土地)に限り、民間からの貸与で差し支えないとされています。
ただし、この場合には、事業存続期間の地上権又は借地権を設定し、登記を行うことが必要です。
さらに、以下の施設形態については、必要資産要件に特例通達が発出されています。
・特別養護老人ホーム
・地域活動支援センター
・幼保連携型認定こども園又は小規模保育事業
・既設法人の福祉ホーム、通所施設
・既設法人以外の保育所
・地域密着型介護老人福祉施設のサテライト型居住施設等
・民間から不動産貸与を受けて行う既設法人の特別養護老人ホーム
これらは細かいルールとなりますので、今回の解説は割愛いたします。詳細はお問い合わせください。
<社会福祉法>
第25条
社会福祉法人は、社会福祉事業を行うに必要な資産を備えなければならない。
<社会福祉法人審査基準>
第2 1 資産の所有等 (1)原則
法人は、社会福祉事業を行うために直接必要なすべての物件について所有権を有していること、又は国若しくは地方公共団体から貸与若しくは使用許可を受けていること。
なお、都市部等土地の取得が極めて困難な地域においては、不動産の一部(社会福祉施設を経営する法人の場合には、土地)に限り国若しくは地方公共団体以外の者から貸与を受けていることとして差し支えないこととするが、この場合には、事業の存続に必要な期間の地上権又は賃借権を設定し、かつ、これを登記しなければならないこと。
〇基本財産要件(社会福祉法人審査基準 第2 2)
社会福祉法人が有する資産は、基本財産、その他の財産、公益事業用財産、収益事業用財産に分類されます。
このうち、基本財産については、法人存続の基礎となる資産であるため、特に処分制限が課されています。
基本財産の具体的範囲は以下の通りです。
【社会福祉施設を運営する法人】
Ⅰ.施設の用に供する不動産
Ⅱ.すべての不動産が国又は地方公共団体から貸与又は使用許可を受けている場合、1,000万円(一部例外あり)以上の資産
Ⅰ.により、前述の資産所有要件で保有している資産は、基本財産に該当します。
【社会福祉施設を運営しない法人】
Ⅰ.原則1億円以上の資産
社会福祉施設を運営しない場合、収入が不安定なことも想定され、安定的運営の観点から、基本財産として設定する金額が多く求められます。
なお、一部の施設について特例通達が発出されています。細かいルールとなるため、今回の解説は割愛いたしますが、詳細はお問い合わせください。
これら基本財産について、主に以下の点について定款に記載が求められています。
①処分の際の所轄庁承認
②担保提供の際の所轄庁承認
<社会福祉法人審査基準>
第2 2 資産の区分 (1)基本財産
ア 基本財産は、法人存立の基礎となるものであるから、これを処分し、又は担保に供する場合には、法第30条に規定する所轄庁の承認を受けなければならない旨を定款に明記すること。
イ 社会福祉施設を経営する法人にあっては、すべての施設についてその施設
の用に供する不動産は基本財産としなければならないこと。ただし、すべての社会福祉施設の用に供する不動産が国又は地方公共団体から貸与又は使用許可を受けているものである場合にあっては、(中略)1,000万円)以上に相
当する資産(中略)を基本財産として有していなければならないこと。
ウ 社会福祉施設を経営しない法人(社会福祉協議会及び共同募金会を除く。)は、(中略)原則として1億円以上の資産を基本財産として有していなければならないこと。(後略)
<社会福祉法>
第30条
社会福祉法人の所轄庁は、その主たる事務所の所在地の都道府県知事とする。ただし、次の各号に掲げる社会福祉法人の所轄庁は、当該各号に定める者とする。
一 主たる事務所が市の区域内にある社会福祉法人(次号に掲げる社会福祉法人を除く。)であつてその行う事業が当該市の区域を越えないもの 市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)
二 主たる事務所が指定都市の区域内にある社会福祉法人であつてその行う事業が一の都道府県の区域内において二以上の市町村の区域にわたるもの及び第百九条第二項に規定する地区社会福祉協議会である社会福祉法人 指定都市の長
2 社会福祉法人でその行う事業が二以上の地方厚生局の管轄区域にわたるものであつて、厚生労働省令で定めるものにあつては、その所轄庁は、前項本文の規定にかかわらず、厚生労働大臣とする。
〇資金の社外流出禁止要件
社会福祉法等に明文化されていませんが、社会福祉法人の行う事業から得られた収益・剰余金について、法人外に拠出することはできないものとされています。
また、公益事業で生じた剰余金は社会福祉事業又は公益事業に充てることが求められており、
収益事業で生じた収益は社会福祉事業又は公益事業に充てることが求められています。
上記の通り資金の法人内流出先が明文規定で限定されている趣旨を鑑み、各事業で生じた収益・剰余金について、法人外に拠出することはできないと解されています。
<社会福祉法>
第26条
社会福祉法人は、その経営する社会福祉事業に支障がない限り、公益を目的とする事業(以下「公益事業」という。)又はその収益を社会福祉事業若しくは公益事業(中略)の経営に充てることを目的とする事業(以下「収益事業」という。)を行うことができる。
<社会福祉法人審査基準>
第1 社会福祉法人の行う事業 2 公益事業
(6) 公益事業において剰余金を生じたときは、当該法人が行う社会福祉事業又は公益事業に充てること。
〇残余財産帰属要件(社会福祉法第31条 第6項、社会福祉法人審査基準 第2 4)
社会福祉法人が解散する際の残余財産についても帰属先に制限があります。
定款に残余財産の帰属先を定める場合は、社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者とするようにしなければなりません。
定款に残余財産の帰属先を定めない場合は、国庫に帰属することになります。
これは前述の社外流出制限を補完する規制となっています。
<社会福祉法>
第31条
6 第一項第十三号に掲げる事項(筆者注:定款に定める解散に関する事項)中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者のうちから選定されるようにしなければならない。
<社会福祉法人審査基準>
第2 法人の資産 4 残余財産の帰属
解散した場合の残余財産の帰属すべき者を定款で定める場合には、その帰属者は、法人に限ることが望ましいこと。なお、定款で帰属者を定めない場合には、残余財産は国庫に帰属するものであること。
その他さまざまな細かい社会福祉法人特有の規制が課せられています。
これは、社会福祉法人が行う事業の公益性の高さを反映するとともに、様々な特例措置や優遇措置が設けられている裏返しでもあります。
次回は、社会福祉法人の特例措置や優遇措置について投稿予定です。
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