医療法人会計基準について~その1(概要)~
平成28年(2016年)に医療法人会計基準が制定され、平成29年(2017年)4月2日以降開始する事業年度から一定規模以上の医療法人に適用が求められています。
すなわち、医療法人の規模が一定以上に成長した場合や、社会医療法人に移行した場合等には、医療法人会計基準に準拠した会計処理および貸借対照表等の作成が法令で求められます。
本記事では、医療法人会計基準の概要と、企業会計基準等その他の会計基準との具体的な相違点について、根拠となる法令や通達を示しながら解説します。
1. 医療法人会計基準の適用対象
1-1. 医療法人会計基準の強制適用範囲
医療法人会計基準は、すべての医療法人に適用されるわけではありません。
以下の要件を満たす医療法人に強制適用されます(医療法第51条第2項、医療法施行規則第33条の2、医療法人会計基準第1条)。
- 医療法人:負債総額50億円以上または事業収益70億円以上
- 社会医療法人:負債総額20億円以上または事業収益10億円以上
- 社会医療法人債発行法人:全法人
※条件に該当するかは、直前会計年度の数値で判定します(医療法人会計基準について(Q&A) Q1)
<医療法施行規則> ※関連文言のみ抜粋
第33条の2
法第五十一条第二項の厚生労働省令で定める基準に該当する者(筆者注:医療法人会計基準適用の医療法人)は、次の各号のいずれかに該当する者とする。
一 最終会計年度(略)の負債の(略)額が五十億円以上又は(略)事業収益の(略)額が七十億円以上である医療法人
二 最終会計年度(略)の負債の(略)額が二十億円以上又は最終会計年度(略)の事業収益の(略)額が十億円以上である社会医療法人
三 社会医療法人債発行法人である社会医療法人
<医療法人会計基準について(Q&A)> 厚生労働省医政局医療経営支援課 事務連絡
Q1 (略)「最終会計年度」とは、直前の会計年度という理解でよいのか。
A ご指摘のとおり「最終会計年度」とは、直前の会計年度となる。
例えば、3月末決算の医療法人の場合、×1年4月1日から開始する会計年度が医療法人会計基準の適用及び法定監査の対象となるかどうかは、×1年3月31日時点の(略)額によって決まることになる。
【重要ポイント】
- すべての医療法人において医療法人会計基準の適用が求められているわけではない
- 社会医療法人では、適用条件が引き下げられている
- 直前事業年度の計上額で適用要否は判断する
1-2. 適用対象外の医療法人の会計基準
上記のとおり、一定規模以上の法人が医療法人会計基準の強制適用対象となります。
一方、一人医療法人など小規模な医療法人は、医療法人会計基準の適用義務はありません。
これらの法人では、病院会計準則など「一般に公正妥当と認められる会計の慣行」を用いることとなります。
ただし、医療法人に義務化されている毎年度の経営情報等の報告様式は、医療法人会計基準と整合する内容になっているため、適用対象外の医療法人においても、医療法人会計基準を任意適用するメリットがあると考えられます。
2. 医療法人会計基準の特徴
以下で、医療法人会計基準を他の会計基準との比較の観点から解説します。
2-1. 計算書類等
医療法人会計基準では、貸借対照表、損益計算書、注記について定められています。
すなわち、医療法人会計基準上キャッシュ・フロー計算書は不要となっています。
病院会計準則等では、キャッシュ・フロー計算書について規程上定められており、医療法人会計基準の大きな特徴の一つとなります。
【重要ポイント】
- 医療法人会計基準上、キャッシュ・フロー計算書の作成は求められていない
※基準では求められていませんが、キャッシュ・フロー計算書は経営管理上重要な計算書類です
その他、事業報告書、財産目録、関係事業者との取引状況報告書等は、医療法上作成が求められているため、会計基準と別枠での作成が必要です。
<医療法>
第51条
医療法人は、毎会計年度終了後二月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者(略)との取引の状況に関する報告書その他厚生労働省令で定める書類(以下「事業報告書等」という。)を作成しなければならない。
2-2. 貸借対照表
医療法人会計基準の貸借対照表は、病院会計準則等他の会計慣行と大枠に大きな相違点はありません。
細かい点として、以下の点留意が必要です。
- 金額単位:会計基準では千円単位と定められています(医療法人会計基準第6条)。
- 勘定科目:概ねその他会計慣行と整合していますが、医療機関債勘定等一部特有の勘定科目が定められています。なお、科目の追加に支障はありません。
- 純資産の部:持分ありなし、社会医療法人・特定医療法人等法人形態に応じて、純資産の部の科目区分が変化します。
【重要ポイント】
- 医療法人会計基準特有の論点は少ないですが、細かい点で他の会計慣行と相違がある点に留意が必要です
2-3. 損益計算書
医療法人会計基準の損益計算書は、他の会計慣行と大幅に異なります。以下で、主な相違点について解説します。
集計区分
医療法人会計基準では、事業損益・経常損益・純損益の3区分で利益が集計されます。
事業損益の中で収益及び費用が本来業務・附帯業務・収益業務の3区分に分類され、それぞれの事業損益が集計されます。
なお、本来業務の事業費用については、事業費と本部費に分類集計されます。
すなわち、以下のひな形の区分となります。
| 科目 |
|---|
| Ⅰ 事業損益 |
| A 本来業務事業損益 |
| 1 事業収益 |
| 2 事業費用 |
| (1)事業費 |
| (2)本部費 |
| 本来業務事業損益 |
| B 附帯業務事業損益 |
| 1 事業収益 |
| 2 事業費用 |
| 附帯業務事業損益 |
| C 収益業務事業損益 |
| 1 事業収益 |
| 2 事業費用 |
| 収益業務事業損益 |
| 事業損益 |
勘定科目
医療法人会計基準では、収益・費用の勘定科目が大幅に集約開示されます。
具体的には、主に以下の点で他の会計慣行と異なります。
- 金額単位:会計基準では千円単位と定められています(医療法人会計基準第6条)。
- 事業損益:本来業務・附帯業務・収益業務の3大区分に分類し、それぞれ事業収益と事業費用で中区分集約し、本来業務費用は事業費と本部費に2小区分集計する(上記区分表参照)。
- 事業外損益:受取/支払利息とその他事業外収益/費用の2区分で開示する。
- 特別損益:固定資産売却益/損とその他特別利益/損失の2区分で開示する。
なお、貸借対照表同様に、科目の追加に支障はありません。
事業費と本部費の区分
医療法人の本業である、本来業務事業費用で区分が求められる、事業費と本部費については、法人本部を独立した会計としている場合の本部の費用であり、独立した会計としていない場合は区分する必要はない(医療法人会計基準適用上の留意事項並びに財産目録、純資産変動計算書及び附属明細表の作成方法に関する運用指針(以下、「運用指針」) 17 ) 区分になります。
すなわち、法人本部を独立会計している医療法人においては、事業費と本部費を区分し、独立会計していない場合は区分が不要となります。
<運用指針>
17 本部費の取扱いについて
本来業務事業損益の区分の本部費としては、法人本部を独立した会計としている場合の本部の費用(資金調達に係る費用等事業外費用に属するものは除く。)は、本来業務事業損益、附帯業務事業損益又は収益業務事業損益に分けることなく、本来業務事業損益の区分に計上するものとする。なお、独立した会計としていない場合は区分する必要はない。
【重要ポイント】
- 損益計算書は医療法人会計基準特有の表示が多い
- 事業損益の区分について留意が必要だが、その他区分では大幅に集約開示される
3. まとめ
上記のように、医療法人会計基準は一部の医療法人のみが強制適用となっていますが、適用開始時には計算書類の開示だけでも多くの変更点が生じます。医療法人会計基準の適用対象となる、適用を開始しようとしている場合には、計画的に医療法人会計基準を熟知した専門家を含めて体制検討を行うことが望まれます。
次回は、医療法人会計基準特有の会計処理について解説予定です。
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