医療法人会計基準について~その4(積立金の会計処理)~
前回の記事では、医療法人会計基準特有の会計処理である、固定資産の減損会計について解説しました。今回は、同様に医療法人会計基準に特有の会計処理である、積立金の会計処理について、処理例を示しながら具体的に解説します。
(参考)前回記事:医療法人会計基準について~その3(固定資産の減損会計)~
医療法人会計基準における積立金の会計処理は、企業会計とは根本的に異なる独自の考え方となります。
本記事では、医療法人会計基準を適用するにあたり、実務上重要となる積立金区分と会計処理に焦点を当てて解説します。
1. 医療法人の純資産の基本構造
1-1. 医療法人会計基準の純資産
企業会計における純資産は、以下のように構成されます。
- 株主資本:資本金、資本剰余金、利益剰余金
- 評価・換算差額等:その他有価証券評価差額金等
一方、医療法人の純資産は、非営利性を前提として、以下のとおり独自の構造となっています。
- 基金・出資金:法人形態により科目/該当有無は異なる
- 積立金:以下で解説の5区分
- 評価・換算差額等:企業会計と同様にその他有価証券評価差額金
【重要ポイント】
- 医療法人の非営利性を反映して、独自の純資産構造になっている
- 基金・出資金は法人形態により科目の有無や科目名が異なる
- 積立金は性格により5つに区分する
1-2. 積立金の5区分概要
医療法人の積立金は、以下の5区分となっています。
- ①設立時積立金
- ②代替基金
- ③法人税等規定の積立金
- ④特定目的積立金
- ⑤繰越利益積立金
<運用指針>
14 積立金の区分について
積立金は、各会計年度の当期純利益又は当期純損失の累計額から当該累計額の直接減少額を差し引いたものとなるが、その性格により以下のとおり区分する。
① (前略)設立等積立金
② (前略)代替基金
③ 固定資産圧縮積立金、特別償却準備金のように法人税法等の規定による積立金経理により計上するもの
④ 将来の特定目的の支出に備えるため、理事会の議決に基づき計上するもの(以下「特定目的積立金」という。)(後略)
⑤ (前略)繰越利益積立金
以下で、これら各積立金の概要と会計処理について解説します。
2. 積立金の5区分の詳細解説
2-1. ① 設立等積立金
2-1-1. 概要
設立等積立金は、以下の2つの場合に計上される積立金です。
- 医療法人設立時:資産の贈与を受けた場合の受贈益
- 持分なし医療法人への移行時:移行時の出資金や繰越利益積立金等の合計額
2-1-2. 持分なし移行時の取扱い
持分の定めのある医療法人が持分の定めのない医療法人へ移行した場合の会計処理について、Q&Aで以下のように規定されています。
<医療法人会計基準について(Q&A)>
Q21
いわゆる持分の定めのある医療法人の出資者全員が持分を放棄し、いわゆる持分のない医療法人へ移行した場合の純資産の部の会計処理はどのようにするのか。
A
(前略)持分のない医療法人へ移行した場合には、原則として評価換算差額等を除くすべての純資産は設立等積立金として処理する。
ただし、税務上の取り扱いで取崩しが規定されている積立金・準備金については、そのまま引き継ぐことになる。
なお持分の放棄により、法人にみなし贈与税が課される場合には、贈与税額を設立等積立金より減額し、未払計上することになる。
【設立等積立金のポイント】
- 持分なし移行時は、原則として評価・換算差額等を除くすべての純資産を設立等積立金として処理する
- 固定資産圧縮積立金など税法上の積立金はそのまま引継ぐ
- みなし贈与税は設立等積立金から直接減額し、未払計上する
2-2. ② 代替基金
2-2-1. 概要
代替基金は、基金拠出型医療法人において、基金の拠出者への返還に伴い計上される積立金です。
なお、代替基金は取り崩しができない点に留意が必要です(「医療法人の基金について」医政発第0330051号 13(2))。
2-2-2. 目的
基金拠出型医療法人の財政基盤となる基金について、返還時に代替基金として積立金に積み立てることで、純資産総額を維持し、財政基盤の安定性を確保する目的で積み立てられます。
- 固定資産圧縮積立金:補助金による固定資産取得時の圧縮記帳(積立金経理方式)
- 特別償却準備金:租税特別措置法による特別償却
- 理事会決議により、任意目的の積立金を積み立てできる
- 特定目的積立金を計上する際には、遅くとも翌期までに同額の特定資産を設定する必要
2-3. ③ 法人税等規定の積立金
2-3-1. 概要
税法上の圧縮記帳や特別償却に対応する積立金です。主に以下の積立金等が想定されます。
2-3-2. 会計処理
会計処理としては、以下の事例が想定されます。
耐用年数は39年とする
補助金受領時
建物取得時
積立金計上(圧縮記帳)
減価償却・積立金取崩
固定資産圧縮積立金
769千円
繰越利益積立金
769千円
※貸借対照表の建物残高:100,000千円(減額なし)
※純資産の部に固定資産圧縮積立金:30,000千円を計上
※減価償却費:100,000÷39年=2,564千円
※圧縮積立金取崩額:30,000÷39年=769千円
2-4. ④ 特定目的積立金
2-4-1. 概要
特定目的積立金は、理事会の議決に基づいて積み立てられる積立金です。
建物修繕や設備更新など特定の目的で、医療法人が任意で積み立てられる積立金となります。
<運用指針> ※一部抜粋
14 積立金の区分について
特定目的積立金を計上する場合には、特定目的積立金とする金額について、当該特定目的を付した特定資産として、通常の資産とは明確に区別しなければならない。
2-4-2. 特定資産について
この積立金の最も重要な特徴は、積立金に対応する現物資産である、特定資産の設定が必要となる点です。
また、特定資産は積立実施年度の遅くとも翌年度に設定する必要があります。
<運用指針> ※一部抜粋
14 積立金の区分について
特定目的積立金を計上する場合には、特定目的積立金とする金額について、当該特定目的を付した特定資産として、通常の資産とは明確に区別しなければならない。
<医療法人会計基準について(Q&A)> ※一部抜粋
Q15
(前略)特定目的積立金の積み立てにより対応する特定資産の設定において、特定目的積立金の金額と同額を特定目的積立金の積み立てと同時に設定しなければならないか。数年間に渡って分割して設定することは認められるのか。
A 特定資産は、特定目的積立金の積み立て実施年度の遅くとも翌年度において設定する必要がある。
2-4-3. 会計処理
会計処理としては、以下の事例が想定されます。
※実務上のQ&Aの事例より
当期:特定目的積立金の積立
翌期まで:特定資産の設定
【特定目的積立金】
2-5. ⑤ 繰越利益積立金
2-5-1. 概要
繰越利益積立金は、上記①~④以外の積立金であり、当期純利益の累計額が計上されます。
なお、特定目的でなく任意で医療法人が積み立てた、任意積立金は繰越利益剰余金に含まれます。
ただし、以下実務上のQ&A記載のとおり、配当制限が課される医療法人では、繰越利益積立金と別途積立金で内部留保される点で相違はありません。
<実務上のQ&A> ※一部抜粋
Q11
医療法人会計基準の適用において、別途積立金を計上することは可能なのでしょうか。
A
(前略)別途積立金とは法律等による積立てが義務付けられたり、将来の特定目的の支出に備えて計上したりするものではなく、任意積立金としての性質を持つものであり、①~④のいずれにも該当しない。そのため、別途積立金ではなく、⑤繰越利益積立金として計上する。
また、医療法人は配当が制限されていることから、別途積立金として区分せず繰越利益積立金とした場合であっても、結果的に内部留保されることについて違いはない。
3. まとめ
医療法人会計基準では、医療法の考え方が反映され、特有の純資産/積立金の制度設計および会計処理が規定されています。
医療法人会計基準は、同様に医療法の考え方等が反映され、多数の特有会計処理や論点が存在します。
医療法人会計基準の適用にあたっては、医療法人会計基準を熟知した公認会計士に相談することをお勧めします。
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