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社会福祉法人は、社会福祉法に基づき社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人です。
公益性の高さから法人税など様々な優遇が受けられる反面、法令による多数の規制が設けられています。
本記事では、
3.社会福祉法人の特例と優遇
の中でも優遇措置を含む法人税について、関連法令を引用しながら解説します。
なお、以下の内容は執筆日時点での法令情報に基づいています。法令改正等がないか必ずご確認ください。また、内容について細心の注意を払っておりますが、記載の内容をもとに生じたあらゆる損害に関して、弊事務所では一切の責任を負いません。

3.社会福祉法人の特例と優遇

社会福祉法人は、前回記載したとおり、多数の規制が設けられています。
これは、社会福祉事業が公益性の高い事業であり、社会福祉法人には多数の特例や優遇措置が設けられている点の裏返しでもあります。
今回は、社会福祉法人の代表的な優遇措置である、税金について各種関連法令を流用しながら解説します。

<参考>前回記事:社会福祉法人について-社会福祉法(各種規制) その2

〇税務上の優遇措置

社会福祉法人は、各種税金で非課税や税率軽減等の優遇措置が設けられています。税目ごとに、主な税務上の優遇措置を解説します。

Ⅰ.法人税

社会福祉法人における法人税では、主に以下の3つの論点があります。
課税非課税区分(法人税法第6条 他)
みなし寄附(法人税法第37条 第5項)
軽減税率(法人税法第66条 第3項 租税特別措置法第42条の3の2)
これらが社会福祉法人の法人税法上の優遇措置につながっています。

①課税非課税区分(法人税法第6条 他)

社会福祉法人は、法人税法上「公益法人等」(法人税法第2条 第6項)に該当します。
そのため、収益事業から生じた所得のみに対して法人税が課されます(法人税法第6条)。
ここで注意が必要なのが、社会福祉法における収益事業の定義と、法人税法における収益事業の定義が異なる点です。

社会福祉法上は、社会福祉事業または公益事業の経営に充てることを目的とする、貸しビル業などを収益事業と定義しています。
参考:社会福祉法人について-社会福祉法(定義と事業) その1
一方、法人税法上は、物品販売業他34事業と付随行為が限定列挙(法人税法施行令第5条)されており、これらに該当する事業が収益事業と定義されています。

すなわち、社会福祉法上社会福祉事業公益事業法人税法上の収益事業に該当して課税対象となる可能性があり、逆に社会福祉法上収益事業法人税法上の収益事業に該当しない可能性があります。

法人税法上の収益事業として、社会福祉法人でよくみられる該当可能性がある事業は主に以下があげられます(法人税法施行令第5条)。

・物品販売業
・物品貸付業
・不動産貸付業
・請負業
・駐車場業
・労働者派遣業  …他

また、付随行為として該当可能性がある事業は主に以下があげられます(法人税基本通達15-1-6)。
・収益事業から生じた所得を預金、有価証券等に運用する行為
・収益事業に属する固定資産等を処分する行為 …他

その他多数の通達等が発出されているため、詳細な該当可否についてはお問い合わせください。

<法人税法>
第6条
内国法人である公益法人等又は人格のない社団等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については、前条の規定にかかわらず、各事業年度の所得に対する法人税を課さない。

別表第二(一部抜粋)
名称:社会福祉法人 根拠法:社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)  

<法人税法施行令>
第5条
法第二条第十三号(定義)に規定する政令で定める事業(筆者注:収益事業)は、次に掲げる事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)とする。(後略)

②みなし寄附(法人税法第37条 第5項)

社会福祉法人が行う法人税法上の収益事業から得られた収益は、社会福祉法上の社会福祉事業や公益事業など、法人税法上の非収益事業に充てられることが想定されます。この点を考慮した税額計算が、みなし寄附金制度となります。


具体的には、
所得金額×50/100
200万円
いずれか大きい金額までを原則として損金(税務上の費用)に計上することができます(法人税法施行令第73条 第1項 第3号 ロ)。

ただし、法人税法上の収益事業と非収益で区分経理が必要(法人税法基本通達15-1-7)な点に留意が必要です。
また、非収益事業から収益事業に元入れしているなど、実質的に収益事業から非収益事業に金銭等の支出がなかったと認められる場合は、みなし寄附金の適用がない(法人税法基本通達15-2-4)点にも留意が必要です。

<法人税法>
第37条
5 公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額(中略)は、その収益事業に係る寄附金の額とみなして、第一項の規定(筆者注:寄附金の損金算入限度額規定)を適用する。ただし、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより支出した金額については、この限りでない。

<法人税法施行令>
第73条
法第三十七条第一項(寄附金の損金不算入)に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる内国法人の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
(中略)
三 公益法人等(中略) 次に掲げる法人の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(中略)
ロ (前略)社会福祉法第二十二条(定義)に規定する社会福祉法人(中略)
当該事業年度の所得の金額の百分の五十に相当する金額(当該金額が年二百万円に満たない場合には、年二百万円)

<法人税法基本通達>
15-1-7
公益法人等が、収益事業から生じた所得を預金、有価証券等に運用する場合においても、当該預金、有価証券等のうち当該収益事業の運営のために通常必要と認められる金額に見合うもの以外のものにつき収益事業以外の事業に属する資産として区分経理をしたときは、その区分経理に係る資産を運用する行為は、15-1-6にかかわらず、収益事業に付随して行われる行為に含めないことができる。(後略)
(注) この場合、公益法人等(中略)のその区分経理をした金額については、法第37条第5項《寄附金の損金不算入》の規定の適用がある。

15-2-4
公益法人等(中略)が収益事業に属する金銭その他の資産につき収益事業以外の事業に属するものとして区分経理をした場合においても、その一方において収益事業以外の事業から収益事業へその金銭等の額に見合う金額に相当する元入れがあったものとして経理するなど実質的に収益事業から収益事業以外の事業への金銭等の支出がなかったと認められるときは、当該区分経理をした金額については法第37条第5項《寄付金の損金不算入》の規定の適用がないものとする。(後略)

③軽減税率(法人税法第66条 第3項 租税特別措置法第42条の3の2)

社会福祉法人においては、上記①で見てきた法人税法上の収益事業に対して法人税が課されます
ただし、一般の株式会社と比較して税率で優遇措置が設けられています。
具体的には、年800万円以下の所得に対して原則15%800万円超の所得に対して19%となっています。
これは、一般の中小規模株式会社の年800万円以下の所得に対して原則15%、800万円超の所得に対して23.2%の税率に比べて優遇されています。

<法人税法>
第66条
3 公益法人等(一般社団法人等を除く。)又は協同組合等に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、各事業年度の所得の金額に百分の十九の税率を乗じて計算した金額とする。

<租税特別措置法>
第42条の3の2(一部抜粋)
第一欄(筆者注:対象法人):三 公益法人等(中略)又は協同組合等(中略)
第二欄(筆者注:税率規定法令):法人税法第六十六条第三項
第三欄(筆者注:規定税率):百分の十九
第四欄(筆者注:適用税率):百分の十九(各事業年度の所得の金額のうち年八百万円以下の金額については、百分の十五(所得の金額が年十億円を超える事業年度については、百分の十七)とする。)

今回は、法人税法上の論点及び優遇措置について解説しました。
社会福祉法人は、その他の税金についても同様に特有の論点及び優遇措置が設けられています。
次回は、社会福祉法人の消費税の論点及び優遇措置について投稿予定です。

詳細については、お気軽に以下からご連絡ください。

前回ブログ:社会福祉法人について-社会福祉法(各種規制) その2