一般社団法人立医療機関の届出制度について|制度改正と対応のポイント
一般社団法人が開設する医療機関の非営利性確保が重要課題として注目されています。
厚生労働省医政局が令和8年1月26日に公表した、社会保障審議会医療部会資料によると、
一般社団法人立医療機関は2009年の312施設から2023年には783施設へと約2.5倍に増加しています。
一方、一般社団法人の制度設計から、医療法人等に求められる非営利性の観点での疑義を呈されています。
本記事では、最新資料に基づき、一般社団法人立医療機関の課題、令和8年度からの制度改正の概要、一般社団法人立医療機関が対応すべき事項について、実務的な観点から解説します。
1. 一般社団法人立医療機関の増加と背景
1-1. 医療機関数の推移データ
厚生労働省医政局総務課が、令和6年1月に都道府県に対して実施した調査によると、一般社団法人等が開設する医療機関が近年急増しています。
【一般社団法人立医療機関数の推移】
特に注目すべきは、2009年以降の14年間で2.5倍以上に増加している点です。
これは医療機関全体の増加率(2008年比で約2%)と比較すると、極めて高い伸び率となっています。
1-2. 一般社団法人制度の特徴
一般社団法人は、公益法人制度改革により平成20年12月から新設された法人類型であり、医療法人とは大きく異なる制度設計がされています。
【一般社団法人の主な特徴】
- 認可不要で登記のみで法人設立が可能
- 認可不要なため、自由なタイミングで法人設立が可能
- 業務に制限がなく、収益事業も可能
- 理事長の医師又は歯科医師要件が不要
この簡便さ、制度の自由さが医療機関開設者として選ばれる理由の一つとなっていますが、同時に医療法人等で求められる非営利性確保の観点で課題も生じています。
2. 問題点と課題
2-1. 非営利性確認の困難さ
医療法第7条第5項では、医療機関の開設者は営利を目的としてはならないと規定されていますが、一般社団法人の場合、この非営利性の確認が困難な状況にあります。
医療法人の場合は、都道府県が設立認可時に定款や事業計画を審査し、開設後も毎年度の事業報告書等の届出により継続的に監督できますが、一般社団法人には現状こうした法制度がありません。
2-2. 都道府県調査の結果
令和6年3月に実施された、都道府県衛生主管部局への調査(回答率95.7%、45都府県)により、以下の実態が明らかになりました。
【令和5年時点の一般社団法人立医療機関内訳】
- 病院:82施設(平成31年比+6)
- 医科診療所:780施設(平成31年比+396)
- 歯科診療所:151施設(平成31年比+42)
【都道府県が認識した課題(抜粋)】
- 開設後の一般社団法人に対する定款、役員、資産等についての行政の監督機能が及ばない
- 特に美容医療での開設が増加傾向にある
- 医療法人以外の法人が医療機関を開設する際の統一的な非営利性に関する基準が必要
- 業務に制限がないため、診療所経営に支障が生じ、医療提供の質が低下する可能性
2-3. 医療法人との制度比較
一般社団法人と医療法人では、行政による監督の仕組みに大きな違いがあります。
| 項目 | 医療法人 | 一般社団法人(現状) |
|---|---|---|
| 設立手続 | 都道府県知事の認可が必要 | 登記のみで設立可能 |
| 定款審査 | 設立認可時に審査 | 審査なし |
| 事業報告 | 毎会計年度、都道府県へ届出義務 | 都道府県への届出義務なし |
| 計算書類 | 貸借対照表、損益計算書等の届出義務 | 都道府県への届出義務なし |
| 監事監査 | 監事が必須 | 理事会設置法人の場合のみ監事が必須 |
このような制度の違いにより、一般社団法人立医療機関については、非営利性の確認が困難な状況にありました。
3. 令和8年度からの制度改正の概要
3-1. 新たな届出義務の内容
令和6年12月25日に厚生労働省医政局医療部会が取りまとめた、「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」を踏まえ、以下の内容が反映された医療法施行令に改正されます。
【制度改正の骨子】
医療機関を開設する一般社団法人(公益社団法人を除く)に対して、毎会計年度、以下の書類を都道府県知事等に届け出ることを義務付ける
- 事業報告書
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 附属明細書(事業活動の規模等が一定基準に該当する場合)
3-2. 届出書類の詳細
届出が義務付けられる書類は、一般社団法人法上の作成義務と医療法人の届出書類を踏まえて規定されています。
| 書類名 | 医療法人の届出 | 一般社団法人法上の作成義務 | 一般社団法人の届出(新規) |
|---|---|---|---|
| 事業報告書 | ○ | ○ | ○ |
| 財産目録 | ○ | – | – |
| 貸借対照表 | ○ | ○ | ○ |
| 損益計算書 | ○ | ○ | ○ |
| 関係事業者との取引状況報告書 | ○ | – | – |
| 監事の監査報告書 | ○ | △(監事は必置でない) | – |
| 純資産変動計算書 | ※一定の場合 | – | – |
【重要ポイント】
- 法制上、政令では法律上作成義務が課されている書類の範囲で届出を求めることが可能なため、一般社団法人法で作成義務のある書類に限定されている
- 医療法人の場合と同様、附属明細書の届出も一定規模以上の場合に求められる予定
- 国において標準様式を作成が検討されている
- 損益計算書については、医業に関する事業収益・事業費用の区分経理が必要
3-3. 施行スケジュール
【施行スケジュール】
例えば、3月決算法人の場合、令和9年3月期(令和8年4月〜令和9年3月)の事業年度から対象となり、実際の届出は令和9年となる予定です。
4. 医療機関が対応すべき事項
4-1. 準備すべきポイント
一般社団法人が開設する医療機関は、令和9年度の届出に向けて、以下の準備を計画的に進める必要があります。
【主な準備事項】
- 区分経理の確認:医業収益・医業費用と、その他事業の収益・費用を明確に区分できているか確認する
- 標準様式の確認:国が作成を検討している標準様式の公表後、対応可能性を検討する
- 会計システムの対応:必要に応じてシステム改修や新規導入を検討する
- 内部管理体制の整備:その他提出書類追加も検討されているため、対応できる体制を整備する
4-2. 非営利性確保のチェック項目
届出制度の創設と併せて、非営利性確認のポイントを示すべき意見が示されています。
非営利性確認事項として以下の通達が発出されており、体制の確認を行うことが重要です。
【主な開設者・非営利性の確認事項】
5. まとめ|計画的な体制整備の必要性
一般社団法人が開設する医療機関に対する届出制度の創設は、医療機関で新規に対応すべき点が含まれる重要な制度改正です。
【制度改正の要点まとめ】
- 令和8年度事業分から、事業報告書、貸借対照表、損益計算書の届出が義務化される
- 損益計算書では医業に関する収益・費用の区分経理が求められる
- 実際の届出は令和9年度以降となる
- 都道府県に対して非営利性確認のポイントを示すことが検討されている
【医療機関が今すぐ着手すべきこと】
- 現状の把握:自法人の会計処理、内部管理体制、役員体制等の現状を把握する
- 課題の抽出:非営利性確保の観点から改善が必要な事項を抽出する
- 改善計画の策定:令和9年度の届出に向けた具体的な改善計画を策定する
- 会計処理の見直し:必要に応じて区分経理の導入等を検討する
- 定款・規程の整備:非営利性を明確にする定款改定、内部規程の整備を検討する
- 専門家への相談:医療機関専門の公認会計士等の専門家に相談し、適切な体制整備を進める
【長期的な視点】
今回の制度改正は、一般社団法人立医療機関の非営利性徹底に向けた第一歩です。
今後一層の非営利性が求められることも想定され、今回の届出制度への対応を契機として、実質的な非営利性の確保と適切なガバナンス体制の構築を進めることが、長期的な事業継続の観点からも重要です。
当事務所では、医療機関のガバナンスに関する専門的な知見を活かし、制度改正対応、会計支援、内部管理体制の整備等について、総合的な支援を提供しております。
今回の制度改正への対応にご不安がある場合は、早めに専門家にご相談されることをお勧めいたします。