医療法人会計基準について~その3(固定資産の減損会計)~
前回の記事では、医療法人会計基準における「簡便的処理」について解説しました。今回は、医療法人会計基準に特有の会計処理について、処理例を示しながら具体的に解説します。
(参考)前回記事:医療法人会計基準について~その2(特殊な処理)~
医療法人会計基準には、企業会計等には存在しない、あるいは根本の考え方が異なる会計処理および論点が多数あります。
いずれも、医療法人会計基準を適用するにあたり、実務上重要となりますが、今回の記事では固定資産の減損会計に焦点を当てて解説します。1. 固定資産の減損会計
1-1. 企業会計等との相違
医療法人会計基準における固定資産の減損会計は、企業会計等の「減損会計」の考え方と全く異なるアプローチを採用しています。
企業会計等では、「固定資産の減損に係る会計基準」に基づき、減損の兆候→認識→測定という3段階のプロセスを経ます。
一方、医療法人会計基準では、時価が著しく低下した場合には時価評価を原則とする「強制評価減」という独自の方法を採用しています。
なお、「強制評価減」の考え方は、医療法人と同じ非営利型の法人である、公益法人会計基準の考え方と長らく整合していましたが、2025年4月1日以降に開始する事業年度から適用される、新公益法人会計基準では企業会計と同様の固定資産の減損会計の考え方が取り入れられています。
1-2. 固定資産の評価額
医療法人会計基準では、固定資産の減損会計について、以下の規定が定められています。<医療法人会計基準>
第10条
2 固定資産(中略)については、 資産の時価が著しく低くなった場合には、回復の見込みがあると認められるときを除き、時価をもって貸借対照表価額とする。
3 (前略)固定資産については、使用価値が時価を超える場合には、前二項の規定にかかわらず、その取得価額から減価償却累計額を控除した価額を超えない限りにおいて使用価値をもって貸借対照表価額とすることができる。
すなわち、回復の見込みがある場合を除き、固定資産の時価が著しく低下した場合、以下の固定資産評価となります。
- 原則:時価評価(強制評価減)
- 例外:使用価値が時価を超える場合は、使用価値で評価可能
【固定資産の評価】
- 医療法人会計基準特有の強制評価減の考え方が適用される
- 時価が著しく低下した場合、原則として時価時価評価を行う(強制評価減)
- 使用価値が時価を超える場合、使用価値で評価可能
以下で、医療法人会計基準の固定資産減損会計の考え方で重要となる、「時価の著しい低下」、「回復の見込み」、「使用価値」それぞれについて解説します。
1-3. 時価の著しい下落とは
時価の著しい下落
医療法人会計基準での実務上参考資料である、日本公認会計士協会公表の「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」(非営利法人委員会研究資料第7号、以下「実務上のQ&A」)において、時価の著しい下落について以下のように定義されています。
<実務上のQ&A>
Q4 固定資産について、時価が著しく低くなった場合とはどのような場合ですか。(後略)
A (前略)資産の時価が著しく低くなった場合とは、時価が帳簿価額からおおむね50%を超えて下落している場合をいうものとする。
すなわち、帳簿価額>時価×50%となった場合が、時価が著しく下落している状況に該当します。
時価について
「時価」についても、同じく「実務上のQ&A」で言及があります。
<実務上のQ&A>
Q4 A (前略)時価は、企業会計と同様に、公正な評価額で把握することになるとされている。通常、それは観察可能な市場価格をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額(例えば、不動産鑑定評価額等)を用いることになると考えられる。
時価は企業会計の考え方と同じく、公正な評価額であり、通常は以下の考え方となります。
- 市場価格が観察できる場合:市場価格
- 市場価格が観察できない場合:合理的に算定された価額(不動産鑑定評価額等)
【時価の著しい下落】
- 50%超の下落が著しい下落に該当する
- 通常 時価は原則として市場価格、合理的に算定された価額(市場価格が観察できない場合)となる
1-4. 回復可能性について
「実務上のQ&A」において、「回復可能性」についても言及があります。
<実務上のQ&A>
Q4 (前略)回復可能性はどのように判断するのでしょうか
A (前略)回復可能性は、相当の期間に時価が回復する見込みであることを合理的な根拠をもって予測できるか否かで判断することが必要になると考えられる
「相当の期間に」時価が回復する見込みであることを「合理的な根拠」で予測できる場合に、「回復可能性がある」状況となります。
回復可能性の有無については、個別状況ごとの判断になるため、医療法人会計基準を熟知した公認会計士に相談のうえで判断することが必要です。
1-5. 使用価値について
「実務上のQ&A」において、「使用価値」についても言及があります。
<実務上のQ&A>
Q5 医療法人における固定資産の使用価値はどのように算定するのでしょうか。
A (前略)使用価値を算定する場合には、資産又は資産グループを使用価値の見積りの単位とすることができると考えられる。
使用価値は、対価を伴う事業に供している固定資産について、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をもって算定する。(後略)
まとめると、使用価値は以下の考えが適用されます。
【使用価値】
- 対価を伴う事業に供している固定資産であること
- 資産または資産グループ単位を見積り単位とすることができる
- 使用価値は使用および処分で生じる将来キャッシュ・フローの現在価値で算定
1-6. 具体例
<実務上のQ&A Q7より>
前提条件
甲医療法人は、対価を伴う事業としてA病院及びB病院を運営している。各病院の固定資産の帳簿価額と時価(不動産鑑定評価額)は以下の通り。
土地建物について、いずれも相当の期間に時価が回復するか否かは不明。
| 病院名 | 建物(帳簿価額) | 土地(帳簿価額) | その他の固定資産(帳簿価額) | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| A病院 | 250 | 1,000 | 50 | 1,300 |
| B病院 | 200 | 800 | 50 | 1,050 |
| 病院 | 建物(時価) | 土地(時価) | その他の固定資産(時価) | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| A病院 | 150(60%) | 300(30%) | 50(100%) | 500 |
| B病院 | 120(60%) | 240(30%) | 50(100%) | 410 |
※( )内は帳簿価額に対する時価の割合
時価の著しい下落と回復可能性
土地について、A病院・B病院ともに帳簿価額に対する時価の割合が30%と、著しい時価の下落が認められる。
時価の回復可能性は認められないため、時価評価が必要である。
また、A病院・B病院ともに対価を伴う事業であるため、使用価値による評価が可能である。
使用価値の算定
各病院の将来キャッシュ・フローを以下のように見積もり、割引率2.0%で現在価値を算定した結果を以下とする。
| 病院 | 使用価値 | 時価 | 判定 |
|---|---|---|---|
| A病院(土地建物等) | 381 | 450 | 使用価値 < 時価 → 時価で評価が必要 |
| B病院(土地建物等) | 614 | 360 | 使用価値 > 時価 → 使用価値で評価することも可能 |
会計処理
土地のみ時価の著しい下落が認められるため、土地の減損処理が必要となる。
上記のとおりA病院の土地を時価で評価、B病院の土地を使用価値で評価する。
【A病院の土地】時価評価
※A病院の土地減損損失:帳簿価額1,000-時価300=700
【B病院の土地】使用価値評価(資産グループの時価の比率で配分した使用価値:359)
※B病院の土地減損損失:帳簿価額800-使用価値359=441
1-7. 注記事項
注記の要否
重要な減損損失を認識した場合には、企業会計の「固定資産の減損に係る会計基準」に準じて、注記することが望ましいとされています。
「実務上のQ&A」で言及されている、具体的な注記内容としては、以下のとおりです。
<実務上のQ&A>
Q6 減損処理後の会計処理及び計算書類における開示方法を教えてください。
A (2)③ 注記事項
重要な減損損失を認識した場合には、減損損失を認識した固定資産、減損損失の金額、評価金額の算定方法等について注記することが望ましい。
1-6.の設例の場合は、以下の注記が想定されます。
注記例
○ 減損損失関係
以下の固定資産について減損損失を計上している。
| 種類 | 土地 |
| 場所 | ○○県○○市 |
| 減損損失の金額 | 1,141 |
(減損損失の内訳)
減損損失の内訳は、A病院の土地 700、B病院の土地 441である。
(評価金額の算定方法)
A病院の土地は不動産鑑定評価額によっている。
B病院の土地は使用価値により評価しており、将来キャッシュ・フローを 2.0%で割り引いて算定している。
【減損会計に関する注記】
- 重要な減損損失を認識した場合には、固定資産、減損損失の金額、評価金額の算定方法等を注記することが望ましい
2. まとめ
上記のように、医療法人会計基準の固定資産の減損会計は、企業会計等とは全く異なる考え方が採用されています。
医療法人会計基準では、その他多数の特有な会計処理や論点があります。医療法人会計基準を適用するにあたっては、事前に医療法人会計基準を熟知した専門家にご相談のうえで計画的に進めることをおすすめします。
次回も、医療法人会計基準特有の会計処理について投稿予定です。
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