医療法人会計基準について~その2(特殊な処理)~
平成28年(2016年)に医療法人会計基準が制定され、平成29年(2017年)4月2日以降開始する事業年度から一定規模以上の医療法人に適用が求められています。
すなわち、医療法人の規模が一定以上に成長した場合や、社会医療法人に移行した場合等には、医療法人会計基準に準拠した会計処理が法令で求められます。
本記事では、医療法人会計基準特有の会計処理に焦点を当て、概要を解説します
1. 医療法人会計基準特有の処理(簡便的処理)
1-1. 簡便的処理の適用要件
医療法人会計基準では、実務上の負担軽減を考慮して、一定規模以下の法人では特有の簡便的処理が容認されています。(医療法人会計基準適用上の留意事項並びに財産目録、 純資産変動計算書及び附属明細表の作成方法に関する運用指針(以下、「運用指針」) 9他)。
以下の要件を満たす医療法人については、当該簡便的処理を採用することができます。
- 前々会計年度末日の負債総額200億円未満である医療法人の会計年度
※条件に該当するかは、前々会計年度末の数値で判定します(運用指針 9他)
簡便的処理の判定においては、以下の点留意が必要です。
- 負債総額が200億円以上になり一度でも原則的処理を採用した場合は、簡便的処理に戻すことはできない(医療法人会計基準について(Q&A)(以下、「Q&A」Q6))
- 簡便的処理を適用した場合には、注記を記載する必要がある(Q&A Q8)
- 医療法人会計基準の強制適用判定は前年度会計数値で行う(医療法施行規則 第33条の2)が、簡便法の判定は前々年度期末日会計数値で行う
<Q&A> ※関連文言のみ抜粋
Q6 A
負債総額が200億円以上となり、いったん原則的な方法を適用した場合には、前々会計年度の負債総額が200億円未満となった場合であっても、簡便的な方法へ変更することは認められない。
Q8
医療法人会計基準の適用に当たって、前々会計年度末の負債総額が200億円未満であることから簡便的な会計処理を適用する場合において、重要な会計方針等の注記においてその旨を記載する必要はあるか(後略)。
A
医療法人会計基準の適用に当たって、前々会計年度末の負債総額が200億円未満であることから簡便的な会計処理を適用している場合には、その旨を重要な会計方針等の注記において明確に記載する必要がある。
【重要ポイント】
- 前々会計年度の負債総額が200億円未満の医療法人は簡便的処理を適用することができる
- 簡便的処理を適用する場合には、注記が必要
- 直前事業年度数値で判定する医療法人会計基準の強制適用要件との相違に注意
1-2. 医療法人会計基準の簡便的処理
医療法人会計基準では、以下の3取引対象に簡便的処理が認められています。
- リース:通常の売買取引に準じて処理を行うべき取引でも、賃貸借処理が容認される
- 貸倒引当金:法定繰入限度額での計上が容認される(一部除外ケースあり)
- 退職給付引当金:退職給付会計基準の簡便法を適用できる
以下で、各科目で適用できる簡便的処理について解説します。
リース取引
企業会計等では、「リースに関する会計基準」により、ファイナンス・リース取引は、原則として売買処理(オンバランス)が求められています。
新リース会計基準では、従来賃貸借処理(オフバランス)が行われていたオペレーティング・リース取引もオンバランス処理することになります。
一方、医療法人会計基準では、前述のとおり簡便法としてすべてのリース取引で賃貸借処理(オフバランス)が認められています。
<運用指針>
9 リース取引の会計処理について
ファイナンス・リース取引については、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うことを原則とするが、以下の場合には、賃貸借処理を行うことができる。
① リース取引開始日が、本会計基準の適用前の会計年度である、所有権移転外ファイナンス・リース取引
② リース取引開始日が、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満である会計年度である、所有権移転外ファイナンス・リース取引
③ 一契約におけるリース料総額が300万円未満の、所有権移転外ファイナンス・リース取引
簡便法適用法人は、リース取引について以下のような会計処理が想定されます。
【リース取引の簡便法】
- 負債総額200億円未満の事業年度が開始日のリース取引は、賃貸借処理(オフバランス)が認められる
- 負債要件に関わらず、少額(300万円未満)のリース取引は賃貸借処理が認められる
貸倒引当金
企業会計等では、「金融商品会計基準」により、債権の貸倒見積高(≒回収不能と見込まれる額)を算出して、貸倒引当金として計上することになります。
一方、医療法人会計基準では、法定繰入限度額が取立不能見込額を明らかに下回る場合を除き、簡便法として法定繰入限度額を計上することが認められています。
すなわち、回収困難と見込まれる債権を除き、債権残高に6/1000を乗じた金額を貸倒引当金計上額とすることができます。
<運用指針>
12 引当金の取扱いについて
(前略)前々会計年度末の負債総額が200億円未満の医療法人においては、法人税法(昭和40年法律第34号)における貸倒引当金の繰入限度相当額が取立不能見込額を明らかに下回っている場合を除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上することができる。
ここでの債権残高は、更生計画の認可決定など債権回収が困難である債権を除き、事業未収金・貸付金等金銭債権の総額から、同一取引先からの未払金や借入金など金銭債務を控除した金額となる点留意が必要です。
【貸倒引当金の簡便法】
- 貸倒引当金は、債権総額×6/1000の計算が認められる
- 債権総額は、同一取引先の債務を除く必要がある点に留意
退職給付引当金
企業会計等では、「退職給付に関する会計基準」により、従業員数が300人未満の企業を対象に、一定の条件で「期末の退職給付の要支給額」を用いて退職給付引当金を簡便的計算することができます。
医療法人会計基準では、負債総額が200億円未満の医療法人は、簡便法として上記簡便的計算を行うことが認められています。
すなわち、厳密な割引計算等を基にした計上額ではなく、期末時点でいくら支給する必要があるかを示す、退職給付要支給額を退職給付引当金として計上することができます。
【退職給付引当金の簡便法】
- 退職給付引当金は、期末時点の要支給額で計算が認められる
1-3. 簡便的処理を適用した場合の注記
前述のとおり、医療法人会計基準の簡便的処理を適用した場合は、注記が必要となります。
具体的には、以下のような内容を、重要な会計方針等の注記に記載することになります(Q&A Q8)。
リース取引
リース取引開始日が、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満である会計年度の所有権移転外ファイナンス・リース取引については賃貸借処理によっている
貸倒引当金
前々会計年度末日の負債総額が200億円未満であることから、法人税法(昭和40年法律第34号)における貸倒引当金の繰入限度相当額を計上している
退職給付引当金
役職員の退職給付に備えるため、当事業年度末における退職給付債務に基づき、当事業年度末おいて発生していると認められる額を計上している。なお、当医療法人は、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満であることから、簡便法による期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法を採用している
2. 医療法人会計基準特有の処理(重要性の原則)
2-1. 重要性の原則
医療法人会計基準では、重要性の原則の考えが採用されています。
すなわち、以下に例示した重要性が乏しい会計処理・取引については、簡易的な処理ができます。
2-2. 勘定科目別の簡易的処理
棚卸資産
重要性が乏しい棚卸資産については、購入時または払出時に費用処理(資産計上しない処理)することができます。 <運用指針>
7 棚卸資産の評価方法等について
(前略)棚卸資産のうち、重要性の乏しいものについては、重要性の原則の適用により、その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。
経過勘定
前払費用、未収収益、未払費用、前受収益の4科目については、重要性が乏しい場合処理しないことができます。 <運用指針>
10 経過勘定項目について
前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、重要性の原則の適用により、経過勘定項目として処理しないことができる 。
有価証券評価
満期保有目的有価証券について、取得価額と債権金額の差額が重要性が乏しい場合、償却原価法を適用しないことができます。 <運用指針>
11 有価証券等の評価について
(前略)取得価額と債券金額との差額について重要性が乏しい満期保有目的の債券については、重要性の原則の適用により、償却原価法を採用しないことができる。 (後略)
引当金
重要性の乏しい引当金については、計上しないことができます。 <運用指針>
12 引当金の取扱いについて
(前略)引当金のうち重要性の乏しいものについては、重要性の原則の適用により、これを計上しないことができる。 (後略)
上記の処理については、一般企業で適用される企業会計原則の重要性の原則と同様の考えとなります。
【重要性の原則】
- 重要性が乏しい一部の取引は簡易的な会計処理を行うことが認められている。
2-3. その他の重要性処理
また、医療法人会計基準での実務上参考資料として、日本公認会計士協会公表の「医療法人会計基準に関する実務上のQ&A」(非営利法人委員会研究資料第7号、以下「実務上のQ&A」)があります。当該資料において、以下の会計処理について、医療法人特有の重要性判断について言及されています。
減損処理
医療法人の保有する固定資産は、帳簿価額と時価を比較して、著しい時価の下落がある場合減損損失を計上する必要があります。しかし、通常どおり使用している備品や車などは、時価が著しく下落しており、その金額に重要性がある場合を除き、厳密な時価評価は不要とすることができます。
すなわち、これら固定資産は、一定の場合を除いて減損処理の対象から除くことができます。
<実務上のQ&A> ※一部のみ抜粋
Q2
(前略)全ての固定資産について時価を調査する必要があるのでしょうか。
A
(前略)通常に使用している什器備品や車両運搬具まで厳密に時価を把握する必要はないとされている。ただし、電話加入権等の時価が著しく下落しており、その金額に重要性があるような場合には時価評価が必要になるとされている。
税効果会計
医療法人会計基準では、「一時差異等の金額に重要性がない場合には、重要性の原則の適用により、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる」(運用指針 15)とされています。
すなわち、原則として税効果会計基準が適用されますが、一時差異等の金額に重要性がない場合は、税効果会計基準を適用しないことができます。
ここで、一時差異等の金額に重要性が乏しい場合は、計算書類の読者が判断を誤らない程度に重要性がないことを意味し、損益計算書の法人税等調整額が当期純利益に与える影響、貸借対照表の繰延税金資産又は繰延税金負債が資産合計に与える影響などを考慮して、総合的に判断する(実務上のQ&A 8)とされています。
当該重要性の判断については、公認会計士と認識をすり合わせる必要があります。
<運用指針>
15 税効果会計の適用について
税効果会計は、原則的に適用することとするが、一時差異等の金額に重要性がない場合には、重要性の原則の適用により、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる。(後略)
<実務上のQ&A> ※一部のみ抜粋
Q8
繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができるのは、どのような場合ですか。
A
(前略)一時差異等の金額に重要性が乏しい場合とは、計算書類の読者が判断を誤らない程度に重要性がないことを意味し、損益計算書の法人税等調整額が当期純利益に与える影響、貸借対照表の繰延税金資産又は繰延税金負債が資産合計に与える影響などを考慮して、総合的に判断することになる。
【その他の重要性】
- 時価が著しく下落しておらず、簿価との差額が僅少な、通常利用している固定資産は減損判断の対象から除外することができます
- 一時差異等の金額に重要性がない場合、税効果会計の適用を行わないことができます
3. 医療法人会計基準特有の会計基準適用要否
その他に、企業会計等で適用される会計基準について、医療法人で適用するか否か判断の余地がある会計基準があります。
具体的には、以下の会計基準について、適用要否が検討できる旨の明記がされています。
3-1. 資産除去債務
3-2. 遡及会計基準
会計基準の適用範囲については、監査人との事前協議が必要です。
<Q&A>
Q18
(前略)資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号 平成20年3月31日 企業会計基準委員会)は適用されるのか。
A
医療法人会計基準においては、資産除去債務に関する会計基準は必ずしも適用することが求められているものではないが、医療法人会計基準を適用する以前から資産除去債務に関する会計基準がすでに適用されている場合には、継続適用を否定することまで求めるものではない。
なお、資産除去債務に関する会計基準に限らず、医療法人会計基準に記載のない会計基準について、適用しないことにより財務諸表の利用者の誤解を招く恐れがある場合には、適用の必要性について監査人と十分協議することが必要となる。
※遡及会計基準も同様内容(Q19)/strong>
【会計基準の適用】
- 資産除去債務、遡及会計基準は必ずしも適用が求められない旨が明記されている
- 会計基準の適用要否の判断は、公認会計士との間での事前協議が必要
4. まとめ
上記のように、医療法人会計基準は特有の会計処理や判断の処理が多数含まれています。
簡便的処理を多く認めることで、実務負担の軽減を図っている会計基準といえます。
その一方で、細かい点を含めて医療法人会計基準特有の論点が多いため、適用にあたっては入念な事前の準備と専門知識を有した公認会計士の支援が重要となります。
次回も、医療法人会計基準特有の会計処理について解説します。
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