医療法人とは、医療法に基づき設立された法人です。医療法人の機関設計は、医療法や医療法施行規則、各種通達などに基づき詳細に規定されています。
本記事では、
3.医療法人の機関(医療法第46条の2等)
の中でも監事について、関連法令を引用しながら解説します。
なお、以下の内容は執筆日時点での法令情報に基づいています。法令改正等がないか必ずご確認ください。また、内容について細心の注意を払っておりますが、記載の内容をもとに生じたあらゆる損害に関して、弊事務所では一切の責任を負いません。
3.医療法人の機関(監事)
前回に引き続き、医療法人に必要な機関について解説していきます。
前回と同内容になりますが、医療法第46条の2に基づき、
社団医療法人・財団医療法人共通に必要な機関としては、A:理事、B:理事会、C:監事
社団医療法人特有の機関としては、D:社員総会
財団医療法人特有に機関としては、E:評議員、F:評議員会があります。
( 詳細はこちらをご参照ください。:医療法人について-医療法 その2 )
この記事では、社団医療法人・財団医療法人共通に必要となるC:監事について解説をします。
なお、医療法人の大半を占める社団医療法人を前提として以下で解説いたします。
<参考>社団医療法人・財団医療法人の違いについて:医療法人について-医療法 その1
C:監事
社団医療法人・財団医療法人ともに必要となる機関の3つめに、監事があります。
監事は医療法人に1名以上置く必要がある機関(医療法第46条の5)ですが、Ⅰ 職務、Ⅱ 要件の2つの観点から解説します。
Ⅰ 監事の職務
監事の職務は、主に以下があげられます。
①業務監査(医療法第46条の8第1項)
②財務の状況監査(医療法第46条の8第2項)
③監査報告書の提出(医療法第46条の8第3項)
④不正行為等の報告(医療法第46条の8第4項)
⑤理事会出席義務(医療法第46条の8の2)
監事の職務の具体的内容は以下の通りです。
①業務監査:医療法人の業務について監査を行います。
具体的には、医政指発第0330003号(平成19年3月30日、最終改正:令和5年7月31日 医政支発0731第 6号)における監事監査報告書の様式6に記載の通り、
「理事会その他重要な会議に出席するほか、理事等からその職務の執行状況を聴取し、重要な決算書類等を閲覧の上、業務」の状況を調査することなどが該当すると考えられます。
②財産の状況監査:医療法人の財産の状況について監査を行います。
具体的には、医政指発第0330003号(平成19年3月30日、最終改正:令和5年7月31日 医政支発0731第 6号)における監事監査報告書の様式6に記載の通り、
「事業報告書並びに会計帳簿等の調査を行い、計算書類、すなわち財産目録、貸借対照表及び損益計算書」の監査を行うことなどが該当すると考えられます。
③監査報告書の提出:監査報告書を会計年度終了後3カ月以内に、社員総会及び理事会に提出します。
④不正行為等の報告:監査の結果、不正・法令違反・定款違反の重大な事実を発見したときに、都道府県知事、社員総会又は理事会に報告します。
⑤理事会出席義務:理事会に出席し、必要があると認めるときには意見を述べる義務があります。
なお、監事には理事会招集請求権(医療法第46条の8の2 第2項)、理事会が招集されない際の招集権(医療法第46条の8の2 第3項)があります。
上記の監事の職務内容からわかるように、医療法等の制度理解を含めた業務面、医療法人会計基準等の財務面双方の見識があるものを選任する必要があります。
この点、厚生労働省発出の「医療法人運営管理指導要綱」にも以下の通り定められています。
5 監事の職務の重要性に鑑み、実際に法人監査業務を実施できない者が名目的に選任されることなく、財務諸表を監査しうる者が選任されていること。
厚生労働省 「医療法人運営管理指導要綱」
なお、監事は理事同様に、これら責務などを果たさず、法人・第三者に対して損害を生じさせた場合に、法人及び第三者に対して損害賠償責任を負うことになります。(医療法第47条、第48条)
上記からわかるように、監事にも幅広い知見が求められるとともに、重い責務が課される点に留意が必要です。
<医療法>
第46条の8
監事の職務は、次のとおりとする。
一 医療法人の業務を監査すること。
二 医療法人の財産の状況を監査すること。
三 医療法人の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後三月以内に社員総会又は評議員会及び理事会に提出すること。
四 第一号又は第二号の規定による監査の結果、医療法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは定款若しくは寄附行為に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを都道府県知事、社員総会若しくは評議員会又は理事会に報告すること。
五 社団たる医療法人の監事にあつては、前号の規定による報告をするために必要があるときは、社員総会を招集すること。
(中略)
七 社団たる医療法人の監事にあつては、理事が社員総会に提出しようとする議案、書類その他厚生労働省令で定めるもの(次号において「議案等」という。)を調査すること。
この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を社員総会に報告すること。(後略)
第46条の8の2
監事は理事会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。(後略)
第47条
社団たる医療法人の理事又は監事は、その任務を怠つたときは、当該医療法人に対し、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。(後略)
第48条
医療法人の評議員又は理事若しくは監事(以下この項、次条及び第四十九条の三において「役員等」という。)がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があつたときは、当該役員等は、これによつて第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。(後略)
厚生労働省医政局指導課長 「医療法人における事業報告書等の様式について」 平成19年3月30日 医政指発第0330003号 最終改正:令和5年7月31日 医政支発0731第 6号
Ⅱ 監事の要件
それでは、医療法人の監事になるための要件はどのようなものがあるのでしょうか。
以下①②要件は医療法上定められており、③要件は医療法人運営管理指導要綱上に定められています。
①医療法人の理事ではないこと(医療法第46条の5 第8項)
②医療法人の職員ではないこと(医療法第46条の5 第8項)
③医療法人の他の役員と親族等の特殊の関係がある者でないこと(医療法人運営管理指導要綱 1)
すなわち、業務の性質上、医療法人の理事や職員からの独立が求められています。
<医療法>
第46条の5
医療法人には、役員として、理事三人以上及び監事一人以上を置かなければならない。ただし、理事について、都道府県知事の認可を受けた場合は、一人又は二人の理事を置けば足りる。
(中略)
8 監事は、当該医療法人の理事又は職員を兼ねてはならない。
(後略)
<厚生労働省 「医療法人運営管理指導要綱」>
(6) 監事
1 理事、評議員及び法人の職員を兼任していないこと。
また、他の役員と親族等の特殊の関係がある者ではないこと。
以上のように、医療法人の監事には専門的な知識を有するとともに、理事や職員から独立した者を選任する必要がある点に留意が必要です。
次回は、医療法人の機関設計(その4)について投稿予定です。
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