2025年7月23日、中央社会保険医療協議会(中医協) 総会において、「医療DX推進体制整備加算」の施設要件見直しが示されました。
具体的には、医療DX推進体制整備加算算定において、2025年10月からのマイナ保険証利用率の段階的引き上げが定められています。
今回は、マイナ保険証利用率向上に伴う影響を、医療機関管理体制の観点で解説します。
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医療DX推進体制整備加算見直しの概要
2024年度の診療報酬改定で定められた、「医療DX推進体制整備加算」の施設要件において、「マイナンバーカードの健康保険証利用の使用について、実績を一定程度有していること。」の要件が含まれています。
当該要件となるマイナ保険証の利用率について、以下のとおり段階的引き上げが行われます(赤色セルが今回示された利用率)。
利用率実績 | 24年7月~ | 24年10月~ | 25年1月~ | 25年7月~ | 25年12月~ |
適用時期 | 24年10月~ | 25年1月~ | 25年4月~ | 25年10月~ | 26年3月~ |
加算1・4 | 15% | 30% | 45% | 60% | 70% |
加算2・5 | 10% | 20% | 30% | 40% | 50% |
加算3・6 | 5% | 10% | 15% ※ | 25% ※ | 30% ※ |
※小児科特例別途あり
25年4月のレセプト件数ベースのマイナ保険証利用率は(中医協調べ、レセ50枚以上等の施設対象集計)、
・病院:平均31.2%、中央値29.8%
・診療所:平均31.5%、中央値31.3%
など増加傾向にあるものの、最上位加算取得には積極的な利用活用促進活動が必要になると想定されます。
では、マイナ保険証の利用率上昇に伴う、管理体制への影響はどのようなものが想定されるでしょうか。
マイナ保険証の管理体制への影響
マイナ保険証の利用に伴う、管理体制上のメリット・デメリットは主に以下があげられます。
<メリット>
マイナ保険証を利用してオンライン資格確認を行うことにより、資格情報がリアルタイムに確認できるため、管理体制上次のような効果が望めます。
①返戻レセプトの減少
患者の保険者変更のタイミング等でも、資格誤りなどによる返戻レセプト減少効果が望めます。
返戻レセプトを減少させることで、以下のような管理体制上のメリットが生じます。
・返戻レセプト受領後、患者への資格情報確認、再請求等の事務工数削減
・返戻レセプトの再請求漏れによる、入金漏れ防止
返戻再請求が漏れていると、診療行為が入金に結びつかないため結果となり、事業運営上返戻レセプト管理は重要です。
一方、返戻レセプト管理では、レセプトごとに返戻理由を確認し、患者情報の追加確認や、レセプト記載内容の追加修正等追加工数が発生することとなります。
したがって、返戻レセプト自体が発生しない体制づくりを行うことが管理体制全体の観点では重要となります。
その点、マイナ保険証でのオンライン資格確認を積極活用することで、返戻レセプト自体減少の効果が望めるため、管理体制上有用となります。
②自己負担額算定誤りの減少
オンライン資格確認では、自己負担割合や高額療養費制度の限度額情報なども確認することができます。その結果として、自己負担額計算誤りを防止することができます。
自己負担額計算誤りを減少させることで、以下のような管理体制上のメリットが生じます。
・返金に伴う事務工数削減
・返戻レセプトの発生防止
一般に管理体制上、現金を取り扱う業務では不正や横領等が生じやすいといわれています。
そのため、病院や診療所では現金を取り扱う窓口業務の管理体制を強化することが重要です。
一方、管理体制強化に充てられる人員にも限度があり、イレギュラーな窓口業務を減らすという観点も管理体制強化には重要です。
その点考慮すると、マイナ保険証でのオンライン資格確認を積極活用することで、イレギュラーな窓口業務の代表である、返金処理の機会削減は管理体制強化の上で非常に有用です。
続いて、マイナ保険証利用率向上で生じる管理体制のデメリットは、主に以下の点があげられます。
<デメリット>
①エラーによるイレギュラー対応発生
既にマイナ保険証が導入されている多くの医療機関ではご認識のとおり、マイナ保険証利用に伴うエラーが多数発生しています。
具体的には、カード認証エラー、患者情報の文字化け、資格情報の読み取りエラーなどが発生しています。
これらエラーが発生した場合、資格確認書による確認を行う、前回通院情報を踏襲するなどイレギュラー対応を行うことになります。
管理体制の観点では、前述のとおりイレギュラー対応を減らす点が重要となりますが、これらエラーが発生した際にはイレギュラー対応を行わざるを得ず、管理上リスクが高まります。
また、イレギュラー対応を行う際には、適切な職務分掌等による管理上リスク低減策が望まれますが、エラー発生時には患者の方を待たせることになるため、時間をかけない対応が必要となる点でも管理上のリスクはさらに高まるといえます。
マイナ保険証の利用率が向上するのに連動して、それらエラーの発生件数も増加することが想定されます。
この点管理体制の観点から、エラー発生時の運用を通常対応の一環として組み込み、窓口に関与するすべての職員にエラー発生時の運用ルール徹底を行うことが望まれます。
システムエラーによる処理を通常対応とするのは、本末転倒な対応となりますが、エラーが頻発している状況下においては、管理リスク削減のために対応することが望まれます。
②資格確認書との併用による工数増加
マイナ保険証の登録者数は、2025年3月末現在で約8,301万人と、全人口の約66%となっています。(厚生労働省 社会保険審議会 医療保険部会資料 2025年5月1日 より)
すなわち、マイナ保険証を利用していない患者などを対象に、マイナ保険証と並行して、資格確認書による患者情報の確認も継続して行うこととなります。
前述のとおり、マイナ保険証の利用率向上により管理体制上大きなメリットが生じます。
一方で、既存の資格確認書(保険証)も継続して利用されるため、マイナ保険証利用による効率的な管理体制と資格確認書(保険証)利用による従来の管理体制の2つの管理体制を継続して運用する必要があります。
管理体制を複数有することで、職員の事務工数が増加するとともに、すべてのプロセスで管理体制を完全に維持することは困難なため全体としての管理水準低下のデメリットが想定されます。
しかし、現状の制度設計ではマイナ保険証と資格確認書双方の管理体制を継続して運用する必要があるため、過剰は削減して必要のみを残す、必要十分な管理体制構築が必要となります。
以上のように、マイナ保険証の利用率向上により管理体制の観点では大きなメリットが想定されます。
また、今後本格稼働が予定される電子カルテ情報共有システムを含めて活用することで、医療の質向上の観点含めて大きなメリットが生じることが想定されます。
積極的にデジタル技術を活用して、必要十分な管理体制構築を行うことが望まれます。
詳細や管理体制に関するお問い合わせは、お気軽に以下からご連絡ください。
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