前回に引き続き、今後展開が計画されている政策について、医療機関に管理体制に与えるメリット・デメリットや注意点の観点から解説いたします。
以下の内容は執筆日時点での情報に基づいています。法令改正等がないか必ずご確認ください。また、内容について細心の注意を払っておりますが、記載の内容をもとに生じたあらゆる損害に関して、弊事務所では一切の責任を負いません。
予防接種事務のデジタル化
2022年12月の予防接種法の改正で法整備がされたことを契機に、予防接種事務のデジタル化の先行実施が進められています。2023年度に9自治体、2024年度は11自治体で先行実施事業が行われており、対象ワクチンも乳幼児等を対象としたA類先行実施(※1)から、高齢者等を対象としたB類先行実施(※2)に広げられています。
※1 A類対象ワクチン:ロタウイルス、B型肝炎、BCG等の定期接種
※2 B類対象ワクチン:季節性インフルエンザ、高齢者肺炎球菌感染症、新型コロナウイルスの定期接種
予防接種事務のデジタル化では、主に以下の領域でデジタル化が行われます。
・自治体→対象者の接種通知が対象者スマホに行われる
・対象者→医療機関の予診票記入が対象者スマホで行われる
・医療機関→自治体の請求、実施報告をオンラインで行う
すなわち、医療機関においては主に以下の点で業務の効率化が図られることが想定されています。
①予診票情報や過去接種情報が電カル等でまとめて確認可能となる
②予診票の自治体送付や医療機関保管が不要となる
③請求がシステム登録により行われ、別途の請求書送付が不要となる
それでは、予防接種事務の電子化による、医療機関の管理体制への影響はどのようなものが想定されるでしょうか。
予防接種事務デジタル化の管理体制への影響
予防接種事務のデジタル化による、管理体制上のメリット・デメリットは主に以下があげられます。
<メリット>
請求の効率化・適正化
診療報酬請求は原則電子化されましたが、予防接種等の自治体請求は紙請求が残っています。
紙請求は管理体制の観点では、主に以下の点で問題や非効率が発生することが想定されます。
Ⅰ.書類管理や集計計算、請求書送付等の手作業事務領域が発生する
Ⅱ.請求管理簿や入金管理簿を作成する場合、紙からexcel等に転記する非効率が発生する
Ⅲ.請求漏れがないかの確認を行うことが難しい
Ⅰ.手作業による管理領域は、一般的にシステム管理に比べて、事務工数増加やヒューマンエラーの発生可能性が高まることになります。
具体的には、手作業による請求計算では、接種種別や回数などを集計計算することになりますが、システム管理では数式による自動計算を行うことができるため、ヒューマンエラーによる誤りの可能性を大幅に低下させるとともに、主に医療事務の方々が担っていた業務工数を減少させる効果が生じることとなります。
Ⅱ.請求・入金が適切に行われていることを確認するため、管理簿を作成することとなります。
この際、紙資料を基に管理簿を作成するには、紙を集めて、データを集計したうえで、入力または記入をする必要がありますが、システム管理されている場合は、出力したデータを加工集計することで管理簿が作成できるため、主に医療事務の方々が担っていた業務工数を減少させる効果が生じることとなります。
Ⅲ.請求漏れがないかの確認は、手作業の場合、Ⅱ.で作成した管理簿などを基に行うことになります。
しかし、手作業による集計のため、ヒューマンエラーの可能性があり、集計の信頼性は低くなります。
一方、システム管理の場合、実績登録の漏れがなければ、実績と請求の整合確認を信頼性高くシステム上で行うことができます。
以上のように、予防接種事務のデジタル化に伴い、管理体制の観点では業務工数削減と管理水準向上の双方の効果が望めます。
一方、予防接種事務のデジタル化に伴う管理体制の観点でのデメリットは、主に以下があげられます。
<デメリット>
導入時のコスト
一気通貫したシステム請求を可能にするには、医療機関で導入している電カルを改修して、予診情報/予防接種記録管理/請求支払システム(予予・請求システム)と接続する必要があります。それに伴い、改修費用が発生することが想定されます。
また、従業員の教育コストや予診確認や実績登録などのシステム運用に慣れるまで一時的な運用効率低下に伴う人的コストも生じます。
また、接種対象者からの問い合わせ対応など、新規の追加コストが発生する可能性も生じます。
不慣れな状態での運用は、ヒューマンエラーが生じるリスクが高まります。そのため、導入後一定期間はダブルチェック等の管理体制強化が望まれ、さらに追加のコストが生じる可能性もあります。
予防接種のパターン管理
予防接種は全額公費助成の接種だけでなく、定額助成や全額自己負担など様々な費用分担パターンが想定されます。
その際に、自治体が一部予防接種について既存の紙請求を残す運用を選択した場合や一部自治体がデジタル化を導入しない場合には、一部デジタル管理・一部紙管理の運用となってしまいます。
管理方法が複数になると、事務負担の増加とヒューマンエラー増加の可能性が想定されます。
具体的には、紙請求の予防接種について、オンライン請求済みと誤認し、請求漏れが生じるリスクなどが想定されます。
また、従業員に個別詳細な運用を周知することが必要になるため、かえって事務負担が増加する可能性もあります。
メリットに記載の観点で発生した、管理不要となる業務に割くリソースを必要最小限にして、デメリットに記載した事務負担の増加やヒューマンエラー増加に対応させるように管理体制を改善することが望まれます。
予防接種事務デジタル化について
厚生労働省は予防接種事務のデジタル化を進め、2028年4月以降にデジタル化の期限を設定することを想定しており、各自治体で請求事務がデジタル化する流れは必然と考えられます。
<これまでの説明会でいただいた主な質問と回答>※一部抜粋
「デジタル化の期限は、令和10年4月1日よりも後に設定する必要があると考えています。」
厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 予防接種課
『予防接種事務デジタル化に係る自治体説明会 令和7年度第3回』令和7年7月4日
また、今後順次予予・請求システムの改修や自治体での事務準備が行われ、医療機関の保有する電カルやオーダリングシステムとの連携が可能となる予定です。
これら準備が済んだ段階で、システムで完結する管理体制が整備され、管理体制の観点では上記のとおり大きなメリットが生じる反面、大きなデメリットが生じる可能性もあります。
強制デジタル化移行する前に、早い段階からどのような人員配置でどのような運用を行っていくのか、管理体制の検討を行い、デメリットの解消に努めることが望まれます。
詳細や管理体制に関するお問い合わせは、お気軽に以下からご連絡ください。
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